Product Story Vol.03
空間に線を引くプロダクト “HANGING LINE”
muracoのプロダクト開発に焦点を当てる”Product Story” 。今回は、テント内やタープの下、木と木の間に張ることで、空間に立体的な収納を生み出すことができる”HANGING LINE(ハンギングライン)”を特集。デザイナーである設計室の森と部品加工を担う製造部の室田に話を聞き、プロダクトに込められた思いを探っていく。
Text : 後藤大輔
Photography : 村上卓也
インテリア業界でのプロダクトデザイナーを経て、地元企業の“muraco”と出会いアウトドアの世界へ。異業種で培った経験を活かした新鮮な目線で製品を生み出す。
自動旋盤や複合旋盤を担当。複雑な部品加工を得意とし、多くのmuraco製品の加工を担っている。
まずは設計室森に、企画のきっかけやデザインの意図を訊いていきます。
空間を平面ではなく立体的に使う
−HANGING LINEの開発のきっかけを教えてください。
森キャンプでどうやって道具を収納しておくかって、非常に難しいと思うんですよ。あとは濡れたギアの乾燥も。例えば普段暮らしているインテリア空間であれば一番の収納方法は棚、つまり大きな箱形状のものです。しかしアウトドアにおいて棚や箱を持ち運べる量は限られますよね。テント内やタープ下でも床面積の大部分を占有してしまう。そこで、空間の任意の場所に道具を「吊り下げられる」「引っ掛けられる」プロダクトがあるといいと考えました。床置きではなく、空中に「引っ掛ける」ことで、空間を立体的に使うことができます。
− HANGING LINEはどうやって使うのでしょうか?
森2本のコードの両端にフックがついており、フックにはテンショナーの機能もあるので、引っ掛けられるところさえ見つければ簡単に取り付けることができます。コードにはビーズを通してあり、コードとビーズで挟み込むことでギアを吊り下げることができます。テントやタープの設営に使うテンショナーは、ロープを通して結び目をつくって輪を作りますが、HANGING LINEはフックを押しつけて引っ掛けるだけなので結び目をつくるアクションが必要ありません。ロープを使い慣れていない方でも使えるようになっていると思います。
直感的でスムーズな操作感
−市場の既製品では同様の商品はあるのでしょうか?差別化した部分や特にこだわった部分を教えてください。
森ハンギングチェーンやデイジーチェーンと呼ばれるプロダクトは、長さ調整の幅が少なかったり、カラビナも含めると意外と重かったります。市場にはHANGING LINEと同じ発想のプロダクトもあったのですが、フックの固定方法やテンション調整が初見ではどうしても難しかった。なのでHANGING LINEは直感的に使えることにこだわりました。フックのスリットをコードに押し付けるだけで引っ掛けられ、あとはスライドさせてテンションを張るだけです。
フライシートや寝袋の乾燥にも
−おすすめの使い方はありますか?
森まずはGUSTAVやRAPIDE X1におすすめです。どちらも広く快適な居住空間が特徴のテントですが、インナーテント内のループに引っ掛けて使うことで、自由な配置でロープを張れます。星と星を繋いで星座をつくるようなイメージですね。床に置くと嵩張りがちな衣類を掛けておけます。あとはタープポール間に張ってタープ下で使うこともおすすめです。夜はLEDランタンを掛けて、朝は寝袋やフライシートを干すのに最適ですね。
IRON CORDで長さのカスタマイズ
−HANGING LINEにはどのようなロープが使用されていますか?
森コードにはmuracoの”IRON CORD” を使用しています。テントやタープのガイロープにも使えますので、忘れてしまったときに代わりに使うこともできます。ダイニーマという高強度の繊維を使ったコードなので、Φ2.0mmと細いですが強度は十分です。これはおすすめの裏技なのですが、長さ3.5m以上の大きなタープ下で使うには、15mのIRON CORDをカットしてフックとビーズを取り替えれば、好きな長さにカスタマイズすることもできます。
進化を続ける設計
−元々はCLOTHESLINE(クローズライン)という商品名でスタートしてからHANGING LINEへとアップデートしましたが、特に改良を加えた部分はどのあたりですか?
森商品のコンセプトは同じですが、フックの形状をシンプルな円筒形状で結び目を隠せるようにし、よりミニマルな外観になりました。また両端の丸みを大きくしたことによって、スムーズにループに通せるようにしました。フックには適度に量感を持たせ、イヤホンのような形状をイメージしています。金属の削り出しだからできる、滑らかさとエッジが同居したデザインだと思います。
ここからはHANGING LINEのフック部品の加工を担う製造事業部の室田に、加工について話を聞いていきます。
設計と製造効率のバランス
−HANGING LINEのフック部品はどういった機械で製造しているのでしょうか?
室田シチズンマシナリーのCNC自動旋盤と呼ばれる機械でつくっています。材料の供給、加工、刃物の交替まで自動で行えるため量産に適しています。muracoのCYLINDER TENSIONER やCARAJAS PEG HAMMER などの商品もこの機械で加工しています。
−プロダクトが出来あがるまでに苦労した部分はありますか?
室田フックの穴の位置と大きさの微調整には苦労しました。森と相談しながら何パターンも試作を重ねましたね。最終的には、引っ掛けやすいけど外れにくい、ちょうどいいものを作れたと思います。
室田あとは加工時間の短縮にも苦労しました。1stモデルの”CLOTHESLINE”が加工に時間がかかったので、設計室の森にシンプルな形にしてとお願いしたんですよ。元のデザインもよかったですけど、やっぱり製造としては短い時間で多く作りたい。HANGING LINEではつまみ部分の平削りをなくすことで、加工時間の短縮だけでなく、より使いやすく、よりシンプルな見た目にできました。
加工が難しいほどおもしろい
−日々仕事をしている中で心がけている事はありますか?
室田図面通りにスピーディにと心がけています。開発のスピード感だったり、加工が難しいものを考えることがおもしろいです。上手くできたときには「かっこよくできたじゃん」って。喜びがある作業だと思います。
1976年に創業以来、高精度な金属切削による部品製造を手がけている。新規事業として2016年にアウトドアブランドmuracoを立ち上げる。
住所 : 埼玉県狭山市根岸 649-7
電話番号:0120-351-665
メール : info@muracodesigns.com.com