Product Story Vol.08 "HERON"
muraco × and wander Talk Session about “HERON”
アウトドアウェアブランドand wanderとアウトドアギアブランドmuraco。
この2者のコラボレーションテント「HERON(ヘロン)」はいかにして生まれたのか。and wanderのデザイナー池内啓太氏と、muraco代表の村上卓也の対談でそのストーリーを聞いた。
Text : Koichi Kusano
1978年生まれ。多摩美術大学卒業後、「イッセイ ミヤケ」に入社。2011年に森美穂子とともに「アンドワンダー」をスタート。大学時代の旅から始まり、アウトドアを自ら豊富に楽しみ、自然の中で過ごすウェアにリアリティとともにモード感を添えながら、アウトドアの魅力を伝え続けている。
インテリアショップや広告代理店でのキャリアを経て、二代目として引き継いだ金属加工会社の新規事業としてアウトドアブランド muracoを立ち上げる。アウトドア業界の既成概念にとらわれない自由な発想と、金属加工業のクラフトマンシップを武器に、自ら製品の企画 、デザイン 、設計を手がけ 、業界に新たな風を送り込む。
– お互いのブランドを知ったきっかけはなんだったんでしょうか。
池内muracoは、アウトドアショップでテントを見たのが初めてでした。自分の周りの仲間もmuracoは気が利いてるという話をしていました。WEBサイトを覗いたら、ものづくりのところでどこまでも熱い気持ちが伝わるブランドだなと感じました。
村上それしか書いてないですもんね(笑)
池内そこからmuracoのことはなんとなく横目に見ながら過ごしていました。
村上 muracoを始めた年に出たGO OUTのイベントにand wanderも出店していて、かっこいいブランドだなと思っていました。僕らはひよっこブランドだったので挨拶に行くのも憚られるような感じで、どこにもペコペコしてビビってたのを今でも覚えてます。
– HERON TENT SHELTERの開発の経緯を教えてください。
村上 最初に連絡をいただいたのが一昨年でした。そのころmuracoは4年目に入りそこそこ数字も伸びてきていて、他ブランドとコラボをしたいと思っていた反面、自信がないのでお声がけができないままの状況が続いていました。ちょうど池内さんから連絡をいただく直前、社内で「and wanderさんとなにかやれたら良いよね」なんて話が出てたところでした。なのでご連絡いただいた時はその場で社員にオファーが来たことを発表しました。テントを設計段階から一緒に開発したいというオファーは初めてだったので、すぐに打ち合わせに来ていただきましたね
池内 テントはブランドを始めた時からいつかやりたいと思っていたカテゴリーでした。ファッション出身の我々にとっては難しいカテゴリーでしたが、取引している工場の中にテントを作れる工場があったので、当初はその工場と打ち合わせを進めていました。しかし、昨今の世界のテントポールの状況を聞くと、構想段階でポールのオーダーを入れないと2、3年後の生産に間に合わないと言われました。サンプル制作も含めると発売まで4、5年後の話になっていくので、それはあまりにも現実的な話ではないなと感じていました。そんな時にポールを作れる背景を持っているmuracoを思い出し、muracoとならこの状況とは関係ない動きができるのではないかと考えてInstagramでDMさせてもらいました。直接会いやすい距離なのでコミュニケーションを取りながらものづくりができそうですし。
村上 それは大きかったですよね。
– and wanderが初めてテントをつくるにあたって、どのようなものを作りたかったんでしょうか。
池内 昔から毎年夏に北海道へキャンプに行くのですが、同じ場所には滞在せず、ずっと移動しながら旅をするようなキャンプスタイルでした。今までいろんなテントを使ってきて感じたことを反映し、設営や撤収にあまり時間がかからないものを作りたいと思っていました。
村上 初めから池内さんの作りたいテントのアイディアが具体的だったので、それを元にmuracoで培ってきた経験をテントに落とし込みました。
池内 1stサンプルを一緒に見ながら、インナーテントの中からフライのフックに手が届くようにしたり。自分達では思いつかなかった、muracoならではのデザインのディテールを付け足していただきました。
村上 ウェビングテープや自在金具など細かいところまでこだわることでand wanderらしさが出るんだなと思いました。細かいところの付属品、全部に一つ一つロゴを入れるか入れないかを検証することに驚きました。
池内 僕たちが作ってきたバッグやアウタージャケットなどは、一つの商品の中で色や材料のトーンをどう整えるかが大事です。テントは大きいのでそこまでやらなくてもプロダクトとして成立するのですが、小さいものを扱う普段の視点で細かいところまで目配せをしていきました。
村上 ビークに生じる布のシワは仕方ないと思っていましたが、池内さんが形状や角度を調整することで軽減するアイデアを提案してくれました。普段から衣服を扱っているからこその感覚や知見には驚かされました。
池内 テントは、道具としての工業製品と、ファッションなどの布製品との中間に位置しているように思います。同じ布の扱い方にしても、立ち位置の違うところからアプローチするのでそれぞれの面白さがあります。
– “HERON”という名前の意味は?
池内“HERON”は「鷺(サギ)」という意味です。公園で1stサンプルの試し張りをしていた時に、鷺が飛んでいたんです。テントの姿が羽を広げた鳥に似ていたので、鳥にまつわる名前が良いなと思っていました。そこで鷺の英名を調べたら”HERON”とあったので。響きも良かったのですぐ決まりました。
村上山下達郎さんの名曲「ヘロン」がまさかこの鳥のことだとは知らなかったですね。
– 今後の展望は?
池内 まずはHERONがキャンプサイトで張られているのを見れたら嬉しいですね。ブランドを始めた当初、and wanderの服を着た人を見かけた時と同じくらいドキドキするかもしれません。
村上 これからはmuracoのテントより目にするかもしれないですね。
池内 今後については次のプロジェクトが進んでますからね。
村上 以前、打ち合わせ終わりに池内さんから「頼んでばかりなので、手伝えることがあったらやります」とお声がけいただいた時からずっと何を作ったらいいか考えていました。今回はテントの他にダッフルバックとペグケースを制作しましたが、もう少し踏み込んで、身に着けるものをand wanderと一緒に作ってみたいです。お互いの強みを活かして、muracoだけでは作れない商品を一緒に作れたらなと思っています。
池内 and wanderのコラボレーションには2つの考え方があります。1つは自分達にできないものづくりをしている会社と一緒になってプロダクトを生み出していくことです。もう1つは、コマーシャル的に1、2回続けて、一気に盛り上げて終えるというような、ファッション業界ならではの考え方もあります。今回は前者で、muracoとはテントに限らず、自分達だけではできないギアづくりを一緒に続けていきたいですね。
村上 最初は一回限りのコラボレーションだと思っていたので、それを聞けて嬉しかったです。
今回の経験を通して、muracoの商品開発だけでは気が付かなかったところを洗練させることができました。ただのコラボレーションにとどまらず、設計や品質につながるような取り組みにしていきたいです。
池内 これからは月に1回ぐらい、お互い会社にデスクを用意してもらって仕事をするのもいいかもしれませんね。
村上 たしかに!こうやって話してる方がアイディアが出てくるんですよね。
「山や自然の中でも街と同じようにファッションを楽しみたい」と考えた2人のデザイナー、池内啓太と森美穂子によって2011年に設立され、感性を刺激するモード感とアウトドアウェアとしての実践的な機能性を追求したものづくりを展開。そのプロダクトは自分たちが実際に山を歩いて感じた楽しさに基づき、風雨から身を守る丈夫で軽量な素材使い、山々に調和し街では新鮮な印象を与えるカラーリングなどを特徴とし、国内外でのフィールドテストに裏づけされた快適なカッティングや実用的なディテールがデザインされている。